今は俺だけ

2019年12月08日 21:45 編集済み:2019年12月08日 21:49

10年後以降の川喜田(元奨励会の医者)と日笠(タイトルホルダーの棋士)の短文。

□日笠は「二冠」設定。どのタイトル名を出せばいいか分からなかったので…
 駒落ちも含めて現実的でなかったらすみません。
□ブロマンスっぽい…というかブロマンスを目指しました。(主に日笠が)

人目に付きにくい隅の席で指していたが、気が付くといつの間にか、周りには人が集まってきていた。
「日笠二冠が指してる」
「相手誰?」
「プロじゃないし、アマ強者? 見たことないな」
「駒落ちだけどいい勝負してるよ」
日笠は川喜田と最近出来たという、将棋カフェに来ていた。互角の勝負ができるように、日笠が駒の数を減らした、駒落ちの状態で指していた。
誰でも気軽に指せるようにと、喫茶を兼ねた対局スペースはオープンな作りになっていて、すぐそばでは他にも何組か指している。
どよめく周囲の人々に、向こう側の川喜田は少し戸惑っているようだった。
プロになり、衆人環境でも指すのに慣れている日笠と違って、川喜田はこういう環境で指したことはあまりないのだろう。
日笠は、自分の手番で駒音をひときわ高く上げた。
――俺を見て下さいよ、川喜田さん。
パチンと響いた音に、川喜田はハッとしたように盤上に目を落とした。そして視線を動かし、その手を口元に当てて考え込んでいる。
それは奨励会で指した時にもよく見ていた、川喜田が思考する時の癖だった。
日笠はその様子をさりげなく見やると、下を向いたまま密かに口角を上げた。
今は、プロも元奨励会も、棋士も医者も関係ない。
ただ将棋を楽しんでいる二人がいるだけなのだから。
日笠は心の中で問いかける。さあ、どう指しますか?
持ち時間があまり残っていない中、川喜田は真剣な表情で盤上に視線を走らせていた。


川喜田と指す時にこういう事思ってる日笠が書きたかった!
口元に手を当てる川喜田の描写も。

ブロマンスという言葉は人によって示す意味が違うように思っているのですが…
個人的にはこんな感じで、恋愛感情ではないし恋愛には決してならないけど、思いのベクトルが尋常じゃないぞみたいなイメージでいます。